事件簿 5 : その社員、本当に存在しますか? 

【架空社員スキーム】

(今度は、人だった……)

総務マネージャーの担当業務を洗い直していると、給与台帳に気になる名前があった。

3人の社員。

給与は、毎月きちんと支払われている。

ところが、

「この3人、誰だ?」

誰に聞いても、はっきりした答えが返ってこなかった。

インドネシアでは、姓を持たない人も珍しくない。

「Selamat」のように、一つの名前だけを持つ社員が複数いることもある。

当時、会社には社員約400名、契約社員約100名が在籍していた。

名前だけを見て、「この人は誰だ」と判断するのは意外に難しい。

私は最初、単純な架空社員を疑った。

ところが、調べてみると違った。

3人とも実在していた。

問題は、そこではなかった。

実在しているのに、会社では働いていなかったのである。

完全な架空人物であれば、本人確認や各種記録との照合で発見できる可能性がある。

しかし、実在する人物が社員として登録されていると、名前や本人情報を確認しただけでは分からない。

確認すべきなのは、

「存在するか」

だけではなく、

「本当に働いているか」

だった。

調査を進めていくと、この3名は遠隔地にある倉庫の「用心棒」として雇われていることになっていた。

その倉庫には、タイムレコーダーが設置されていなかった。

しかも、この「用心棒」の存在を知っていたのは、総務部門と倉庫部門の一部の社員だけだった。

なぜ雇われているのか。

どのような経緯で採用されたのか。

何をしているのか。

そして、本当に必要なのか。

誰に聞いても、明確な説明ができなかった。

それなら、本人に会って確かめるしかない。

私は、この3名と実際に会って話をするところまで漕ぎ着けた。

そして、約束の日。

彼らは現れた。

「……」

なぜか、軍服を着ている。

(怪しい……)

そして、

(怖い……)

それが、彼らを見た瞬間の率直な印象だった。

私は、この3人が本当に会社の社員なのか、それとも別の立場の人間なのか、その場では判断できなかった。

彼らは、

「倉庫を守っている」

と繰り返すだけだった。

誰が雇ったのか。

誰の指示で給与が支払われていたのか。

なぜ、このような仕組みになっていたのか。

結局、最後まで真相を解明することはできなかった。

しかし、この3名への給与支払いを停止した後も、会社の業務には何の支障も生じなかった。

少なくとも一つだけ、はっきりしたことがあった。

会社にとって必要な給与支払いではなかったのである。

この事件は、私に当たり前のことを教えてくれた。

給与台帳に名前があるからといって、その人が会社で働いているとは限らない。

不正は、帳簿の数字だけを見ていても見つからない。

「この人は、本当に働いているのか」

それを確認する必要がある。

そして、この事件をきっかけに、私は二度と同じことが起きない仕組みを作ることにした。

写真付き社員一覧を整備し、給与台帳との照合を毎月実施する運用へ変更した。

 

■ この事件から学べること

内部統制の第一歩は、「実在を確認する」ことである。しかし、人であれば、確認すべきなのは名前や本人情報だけではない。その人が、本当にそこで働いているのか。その当たり前が確認できなくなった時、不正は静かに入り込む。

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