事件簿 9 : 例外には、必ず理由がある 

【社用車不正使用スキーム】

私がインドネシアへ赴任した当時、一般家庭で自動車を所有している割合はまだ少なく、125cc程度のオートバイに家族4人で乗って移動している光景をよく目にした。

日本では考えにくいが、それが当時のインドネシアでは日常の風景だった。

その後、GOJEKやGrabといった配車サービスが急速に普及し、人々の移動手段は大きく変わった。

今回の事件は、ちょうどそのような時期に起きた。

真夜中だった。

突然、携帯電話が鳴った。

嫌な予感がした。

電話に出ると、

「運転手が事故を起こしました」

という一言が返ってきた。

「怪我は?」

「病院にいますが、命に別状はありません」

その瞬間は、胸をなで下ろした。

しかし、すぐに別の違和感が頭をよぎった。

「なぜ、この時間に運転手が社用車を運転しているのだろう」

「誰を乗せていたの?」

と尋ねると、

「運転手一人でした」

という返事が返ってきた。

一瞬、状況が理解できなかった。

事故そのものよりも、その状況に違和感を覚えた。

インドネシアでは、多くの日系企業が駐在員に社用車と専任運転手を用意している。

通常、勤務が終われば社用車は駐在員の住居に置かれ、運転手は自分のオートバイで帰宅する。

つまり、深夜に運転手が一人で社用車を運転していること自体が、「いつもと違う」状況だったのである。

翌日、駐在員本人と運転手から事情を聞いた。

すると、思いもよらない事実が分かった。

運転手は夜になると社用車を持ち出し、配車アプリのドライバーとして働いていたのである。

会社の車を使って、副収入を得ていた。

会社には、社用車の走行記録簿があった。

しかし、その記録をつけていたのは、運転手本人だった。

そして、駐在員もその内容を十分に確認していなかった。

記録はある。

しかし、誰も確認していない。

それでは、記録がないのと大きくは変わらない。

事故が起きたことで偶然発覚したが、もし事故がなければ、社用車の不正使用はさらに長く続いていたかもしれない。

そして、私はもう一つ考えた。

もし事故で第三者を巻き込んでいたら、どうなっていただろう。

会社の車が、会社の知らないところで、会社とは関係のない仕事に使われていたのである。

これは単なる「車の私的利用」では済まない問題だった。

この事件は、社用車で起きた。

しかし、同じことは会社のさまざまな資産で起こり得る。

パソコン。

携帯電話。

工具。

備品。

会社の資産には、

「少しくらいなら大丈夫」

という誘惑が入り込む余地がある。

だからこそ、記録を残すだけでは十分ではない。

誰かが、その記録を見なければならない。

そして、

「いつもと違う」

という小さな例外に気づいたら、その理由を確認する。

深夜に、運転手が一人で社用車を運転している。

今回の事件も、そこから始まった。

例外には、必ず理由がある。

その理由を確認することが、不正を見つける最初の一歩になることがある。

 

■ この事件から学べること

例外は、見逃すものではない。例外には、必ず理由がある。

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