
【社用車不正使用スキーム】
私がインドネシアへ赴任した当時、一般家庭で自動車を所有している割合はまだ少なく、125cc程度のオートバイに家族4人で乗って移動している光景をよく目にした。
日本では考えにくいが、それが当時のインドネシアでは日常の風景だった。
その後、GOJEKやGrabといった配車サービスが急速に普及し、人々の移動手段は大きく変わった。
今回の事件は、ちょうどそのような時期に起きた。
真夜中だった。
突然、携帯電話が鳴った。
嫌な予感がした。
電話に出ると、
「運転手が事故を起こしました」
という一言が返ってきた。
「怪我は?」
「病院にいますが、命に別状はありません」
その瞬間は、胸をなで下ろした。
しかし、すぐに別の違和感が頭をよぎった。
「なぜ、この時間に運転手が社用車を運転しているのだろう」
「誰を乗せていたの?」
と尋ねると、
「運転手一人でした」
という返事が返ってきた。
一瞬、状況が理解できなかった。
事故そのものよりも、その状況に違和感を覚えた。
インドネシアでは、多くの日系企業が駐在員に社用車と専任運転手を用意している。
通常、勤務が終われば社用車は駐在員の住居に置かれ、運転手は自分のオートバイで帰宅する。
つまり、深夜に運転手が一人で社用車を運転していること自体が、「いつもと違う」状況だったのである。
翌日、駐在員本人と運転手から事情を聞いた。
すると、思いもよらない事実が分かった。
運転手は夜になると社用車を持ち出し、配車アプリのドライバーとして働いていたのである。
会社の車を使って、副収入を得ていた。
会社には、社用車の走行記録簿があった。
しかし、その記録をつけていたのは、運転手本人だった。
そして、駐在員もその内容を十分に確認していなかった。
記録はある。
しかし、誰も確認していない。
それでは、記録がないのと大きくは変わらない。
事故が起きたことで偶然発覚したが、もし事故がなければ、社用車の不正使用はさらに長く続いていたかもしれない。
そして、私はもう一つ考えた。
もし事故で第三者を巻き込んでいたら、どうなっていただろう。
会社の車が、会社の知らないところで、会社とは関係のない仕事に使われていたのである。
これは単なる「車の私的利用」では済まない問題だった。
この事件は、社用車で起きた。
しかし、同じことは会社のさまざまな資産で起こり得る。
パソコン。
携帯電話。
工具。
備品。
会社の資産には、
「少しくらいなら大丈夫」
という誘惑が入り込む余地がある。
だからこそ、記録を残すだけでは十分ではない。
誰かが、その記録を見なければならない。
そして、
「いつもと違う」
という小さな例外に気づいたら、その理由を確認する。
深夜に、運転手が一人で社用車を運転している。
今回の事件も、そこから始まった。
例外には、必ず理由がある。
その理由を確認することが、不正を見つける最初の一歩になることがある。
■ この事件から学べること
例外は、見逃すものではない。例外には、必ず理由がある。