
【面接の技術】
私は、面接(インタビュー)が得意だったわけではない。
むしろ、不正調査において勝負が決まるのは、面接が始まる前だと思っている。
どれだけ証拠を集められたか。
どれだけ事実を積み重ねられたか。
被疑者との面接は、証拠を探す場ではない。
集めた証拠を確認し、本人から事実を聞くための最後のプロセスなのである。
先の「購買パススルースキーム」の調査でも、最後に被疑者への面接を行った。
こちら側は、弁護士と私。
相手は、被疑者一人。
静かな会議室で、三人だけの面接が始まった。
不正調査では、全般的な事項から調査を始め、徐々に具体的な内容へ進み、最後に核心へ迫っていく。面接も同じだ。
まずは事件への関与が低い人物から順番に話を聞く。
他の調査や証拠収集を十分に行う。
そして最後に、被疑者と向き合う。
これまで何件もの不正調査を経験してきた。
その中で、被疑者との面接では、いくつか特徴的な反応を見ることがあった。
質問を復唱する。
「もう一度質問してください」
と、時間を稼ぐ。
取るに足らない出来事は細かく覚えているのに、核心部分になると、
「思い出せません」
と繰り返す。
「部屋が暑い」
「あとどれくらい時間がかかりますか」
と、面接とは直接関係のない話を始める。
もちろん、こうした反応だけで不正を判断することはできない。
だからこそ、証拠が必要なのである。
今回の購買担当者にも、こうした反応が見られた。
しかし、この時点で、こちらはすでに十分な証拠を集めていた。
内部通報者の証言。
購買の流れ。
取引に介在していた会社の存在。
そして、会社登記簿。
その登記簿には、会社の代表者として、彼の妻の名前が記載されていた。
私は、証拠を一つずつ静かに提示していった。
彼は、少しずつ言葉数が減っていった。
そして、会社登記簿の代表者が彼の妻であることを確認したうえで、必要であれば、奥様についても事実関係を確認する必要があることを伝えた。
彼は完全に黙り込んだ。
部屋には、沈黙だけが流れた。
私はその瞬間、
「終わった」
と思った。
しばらくして、弁護士が静かに口を開いた。
「なぜやったのですか」
私は、一瞬その言葉に引っ掛かった。
弁護士は、
「あなたがやったのでしょう」
とは聞かなかった。
「なぜやったのですか」
その一言だけだった。
私は、その質問が非常に印象に残っている。
「やったのか、やっていないのか」を追及するのではない。
すでに積み上げた証拠を前提に、
「なぜ」
と尋ねたのである。
彼は、しばらく俯いたままだった。
そして、小さな声で、
「……お金が欲しかった」
とだけ答えた。
私は続けて言った。
「子どもが多くて、生活が苦しかったのかな」
もちろん、不正を正当化するつもりはない。
しかし、相手を追い詰めるだけでは、人はなかなか口を開かない。
自分から事実を話せるきっかけをつくることも、面接では重要なのである。
すると彼は、突然泣き始めた。
しばらく何も話さず、ただ泣き続けていた。
それまで張り詰めていたものが、一気に切れたように見えた。
テレビドラマでは、犯人は証拠を突きつけられると、潔く罪を認める。
しかし、現実はそんなに単純ではない。
実際、インドネシアで私が経験した不正調査では、本人の自白までたどり着くことは、むしろ少なかった。
だから、自白を前提に調査してはいけない。
証言を集める。
書類を確認する。
数字を突き合わせる。
現物を見る。
必要なら、映像を見る。
一つずつ、事実を積み重ねていく。
そして最後に、本人と向き合う。
不正調査とは、派手な仕事ではない。
気の遠くなるような確認作業の積み重ねなのである。
■ この事件から学べること
自白が、不正を証明するのではない。積み重ねた証拠が、最後に自白を生み出すのである。