事件簿 11 : 自白は証拠の後からついてくる

【面接の技術】

私は、面接(インタビュー)が得意だったわけではない。

むしろ、不正調査において勝負が決まるのは、面接が始まる前だと思っている。

どれだけ証拠を集められたか。

どれだけ事実を積み重ねられたか。

被疑者との面接は、証拠を探す場ではない。

集めた証拠を確認し、本人から事実を聞くための最後のプロセスなのである。

先の「購買パススルースキーム」の調査でも、最後に被疑者への面接を行った。

こちら側は、弁護士と私。

相手は、被疑者一人。

静かな会議室で、三人だけの面接が始まった。

不正調査では、全般的な事項から調査を始め、徐々に具体的な内容へ進み、最後に核心へ迫っていく。面接も同じだ。

まずは事件への関与が低い人物から順番に話を聞く。

他の調査や証拠収集を十分に行う。

そして最後に、被疑者と向き合う。

これまで何件もの不正調査を経験してきた。

その中で、被疑者との面接では、いくつか特徴的な反応を見ることがあった。

質問を復唱する。

「もう一度質問してください」

と、時間を稼ぐ。

取るに足らない出来事は細かく覚えているのに、核心部分になると、

「思い出せません」

と繰り返す。

「部屋が暑い」

「あとどれくらい時間がかかりますか」

と、面接とは直接関係のない話を始める。

もちろん、こうした反応だけで不正を判断することはできない。

だからこそ、証拠が必要なのである。

今回の購買担当者にも、こうした反応が見られた。

しかし、この時点で、こちらはすでに十分な証拠を集めていた。

内部通報者の証言。

購買の流れ。

取引に介在していた会社の存在。

そして、会社登記簿。

その登記簿には、会社の代表者として、彼の妻の名前が記載されていた。

私は、証拠を一つずつ静かに提示していった。

彼は、少しずつ言葉数が減っていった。

そして、会社登記簿の代表者が彼の妻であることを確認したうえで、必要であれば、奥様についても事実関係を確認する必要があることを伝えた。

彼は完全に黙り込んだ。

部屋には、沈黙だけが流れた。

私はその瞬間、

「終わった」

と思った。

しばらくして、弁護士が静かに口を開いた。

「なぜやったのですか」

私は、一瞬その言葉に引っ掛かった。

弁護士は、

「あなたがやったのでしょう」

とは聞かなかった。

「なぜやったのですか」

その一言だけだった。

私は、その質問が非常に印象に残っている。

「やったのか、やっていないのか」を追及するのではない。

すでに積み上げた証拠を前提に、

「なぜ」

と尋ねたのである。

彼は、しばらく俯いたままだった。

そして、小さな声で、

「……お金が欲しかった」

とだけ答えた。

私は続けて言った。

「子どもが多くて、生活が苦しかったのかな」

もちろん、不正を正当化するつもりはない。

しかし、相手を追い詰めるだけでは、人はなかなか口を開かない。

自分から事実を話せるきっかけをつくることも、面接では重要なのである。

すると彼は、突然泣き始めた。

しばらく何も話さず、ただ泣き続けていた。

それまで張り詰めていたものが、一気に切れたように見えた。

テレビドラマでは、犯人は証拠を突きつけられると、潔く罪を認める。

しかし、現実はそんなに単純ではない。

実際、インドネシアで私が経験した不正調査では、本人の自白までたどり着くことは、むしろ少なかった。

だから、自白を前提に調査してはいけない。

証言を集める。

書類を確認する。

数字を突き合わせる。

現物を見る。

必要なら、映像を見る。

一つずつ、事実を積み重ねていく。

そして最後に、本人と向き合う。

不正調査とは、派手な仕事ではない。

気の遠くなるような確認作業の積み重ねなのである。

 

■ この事件から学べること

自白が、不正を証明するのではない。積み重ねた証拠が、最後に自白を生み出すのである。

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