
ここで紹介した十一の事件は、どれも私がインドネシアで実際に経験した出来事です。
決して特別な会社で起きた話ではありません。
むしろ、どの会社でも起こり得る、決して珍しいとは言えない出来事だったと思います。
私は、不正を摘発するために仕事をしてきたわけではありません。
本当に守りたかったのは、真面目に働く社員が安心して働ける会社でした。
そのためには、不正を見つけるだけでなく、不正そのものを抑止する仕組みをつくることが重要です。
事件簿を振り返ると、不正はさまざまな形で現れました。
信頼を利用する者もいました。
善意を悪用する者もいました。
会社が忙しい時を狙う者もいました。
しかし、共通していたことが一つあります。
すべての事件は、小さな違和感から始まっていました。
「なぜだろう」
その問いを放置しなかったことが、事実を明らかにする第一歩でした。
そして、もう一つ学んだことがあります。
内部統制とは、人を信用しないための仕組みではありません。
人を安心して信頼できる会社をつくるための仕組みなのです。
海外で働いていると、文化も、価値観も、商習慣も日本とは大きく異なります。
だからこそ、人を信頼するだけでも、人を疑うだけでも、会社は守れません。
信頼と確認。
その二つを両立させることが、海外経営には欠かせないと私は考えています。
最後になりますが、この事件簿に登場する多くの現地社員は、誠実で、真面目で、会社のために懸命に働いていました。
私が出会った不正は、そのような大多数の社員ではなく、ごく一部の人たちによるものです。
だからこそ、不正を防ぐことは、不正を行う人を疑うためではなく、真面目に働く人たちを守るためでもあります。
この事件簿が、海外で働く駐在員や経営者、そして内部統制や不正対策に携わる皆様にとって、少しでもお役に立てば幸いです。
そして、明日もどこかで誰かが、小さな違和感を見逃さず、
「なぜだろう」
と立ち止まってくれることを願っています。
【この事件簿について】
この事件簿は、私が海外子会社のCFOとして実際に経験した出来事をもとに執筆しています。一方で、関係者のプライバシー保護および守秘義務に配慮するため、会社名、個人名、時期、一部の状況や周辺事実については、特定を防ぐ目的で変更または再構成しています。また、挿入されている画像は、すべて事件をイメージしたものです。しかし、各事件の本質、経緯、私が直面した判断や葛藤、そしてそこから得た教訓は、すべて実体験に基づくものです。