事件簿 6 : 人は「見られている」と思えば不正をやめる 

【軽油窃盗スキーム】

インドネシアへ赴任して間もない頃、不思議な光景を目にした。

道端で、小瓶に入った液体を売っている人たちがいた。

私はそれが何なのか分からず、運転手に尋ねてみた。

「あれは何を売っているの?」

運転手は、何でもないことのように答えた。

「ガソリンや軽油ですよ」

なぜ、ガソリンスタンドではなく、道端で燃料を買う人がいるのだろう。

不思議には思ったものの、当時は、

「地方ではガソリンスタンドが少ないからだろう」

程度に考え、それ以上深く考えることはなかった。

その後、私は製品配送用トラック約10台の配送効率を改善するため、全車両へGPS管理システムを導入した。

このGPSは、位置情報だけではなく、車両の各種メーター情報まで取得できる高機能なもので、燃料計のデータもリアルタイムで確認できた。

導入から数か月後、配送コストを分析していると、軽油の使用量が想定以上に減少していることに気づいた。

ルート改善による効果だけでは説明できない。

「なぜ、ここまで燃料消費が減ったのだろう」

改善したこと自体は、歓迎すべきことだった。

しかし、理由の分からない改善を、そのまま喜ぶわけにはいかない。

そう思い、関係者への聞き取りを始めたところ、思いもよらない事実が明らかになった。

GPS導入以前、当社のドライバーの一部は、配送途中でトラックを道路脇に停車させ、専用の器具を使ってタンクから少量ずつ軽油を抜き取り、それを道端で販売して副収入を得ていたというのである。

大量に抜き取れば、すぐに発覚してしまう。

だから、一回当たりはごく少量。

しかし、それを毎日のように繰り返せば、かなりの金額になる。

その話を聞いた時、赴任当初に見た「あの道端の小瓶」を思い出した。

あの燃料の中にも、こうして抜き取られたものが混じっていたのかもしれない。

もちろん、道端で売られていた燃料が、すべて盗難品だったと言うつもりはない。

しかし、その一部に、このような不正な流通ルートが存在していたことは間違いなかった。

興味深いのは、私は誰かを捕まえたわけではないということである。

ドライバーを集めて、

「軽油を盗むな」

と注意したわけでもない。

ただ、GPSを導入しただけだった。

それでも、不正は止まった。

「会社は燃料計のデータまで見ているらしい」

そんな話が、ドライバーの間に広がっていたのである。

つまり、GPSが不正を発見したのではない。

「見られている」という意識が、不正を思いとどまらせたのである。

結果として、軽油の使用量が大きく改善した理由は、配送効率の向上だけではなかった。

不正が抑止されたことも、大きな要因だった。

この事件で私は、内部統制について一つの重要なことを実感した。

不正が起きてから見つけるだけが、内部統制ではない。

不正をしようと思った時に、「やめておこう」と思わせる。

それもまた、内部統制なのである。

■ この事件から学べること

最高の内部統制とは、不正を摘発することではない。不正を思いとどまらせることである。

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