まとめ (事例から学んだ内部統制11の原則) 

11の事件を振り返ると、不正の手口も、発見のきっかけも、それぞれ異なっていました。

しかし、現場で不正と向き合う中で、繰り返し感じたことがあります。

それは、内部統制とは難しい制度や規程から始まるものではなく、日々の仕事の中にある小さな違和感を見逃さないことから始まる、ということです。

ここでは、11の事件から私が学んだことを、11の原則としてまとめます。

1.信頼には、確認が必要である

社員を信頼することと、確認しないことは同じではありません。
むしろ、安心して人を信頼するためにこそ、確認する仕組みが必要です。
信頼と内部統制は、対立するものではありません。

2.不正対応では、時間も敵になる

不正の兆候を見つけても、対応を先送りすれば、証拠が失われたり、関係者同士で口裏を合わせたりする時間を与えてしまいます。
違和感を覚えたとき、どれだけ早く動けるかが、その後の調査を大きく左右します。

3.会社を守る決断は、孤独である

不正調査では、誰を信じてよいのか分からなくなることがあります。
時には、長年一緒に働いてきた社員について厳しい判断をしなければなりません。
経営者には、最後は自分で決断し、その結果を引き受けなければならない瞬間があります。

4.小さな不正を見逃さない

「このくらいなら大したことはない」という判断が、より大きな不正を許す土壌をつくります。金額の大小ではなく、不正を容認するメッセージを組織に与えないことが重要です。

5.まず、実在を確認する

帳簿やシステムに記録されているからといって、それが現実に存在するとは限りません。人、モノ、会社、取引――まず「本当に存在するのか」を確認する。そして人であれば、「本当にそこで働いているのか」まで確認する。内部統制は、意外なほど単純な確認から始まります。

6.摘発するより、抑止する

不正を見つけて犯人を処分することだけが内部統制ではありません。「会社は見ている」「異常があれば確認される」と社員が認識するだけでも、不正を思いとどまらせる力になります。最高の内部統制は、不正を起こさせないことです。

7.数字だけでなく、人とプロセスを見る

数字は重要です。しかし、数字だけを見ていても、その裏側で何が起きているのかは分かりません。誰が、どのような手続きで、その数字を作っているのか。人と業務プロセスまで見ることで、初めて数字の意味が見えてきます。

8.善意を、仕組みで守る

社員のため、会社のためという善意があると、人はチェックを緩めてしまいます。しかし、内部統制とは人を疑うためのものではありません。善意を悪用できない仕組みをつくることで、本当の善意を守るものです。

9.例外には、必ず理由がある

いつもと違う時間、いつもと違う取引、いつもと違う数字。例外を単なる例外として処理せず、「なぜだろう」と考えることが重要です。不正は、多くの場合、その小さな違和感から姿を現します。

10.忙しい時ほど、確認する

工場移転、M&A、ERP導入、大規模な組織変更――会社が大きく動いている時には、通常の統制は弱くなります。しかし、不正を行う側から見れば、その時こそ最大の機会です。平時の統制だけでは、有事の不正は防げません。

11.自白は、証拠の後からついてくる

不正調査の目的は、巧みな質問で自白を引き出すことではありません。事実を確認し、証拠を一つひとつ積み重ねることが先です。十分な証拠がそろったとき、自白はその後からついてきます。

これらの11の原則は、COSO(内部統制の国際的なフレームワーク)や公認不正検査士協会の理論を要約したものではありません。

私自身が海外子会社の現場で不正と向き合い、悩み、失敗しながら学んだことを、11の事件の振り返りとしてまとめたものです。

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