事件簿 7 : 在庫は嘘をつかない。嘘をつくのは人である 

【棚卸資産窃盗スキーム】

「製品が一本足りません」

ある顧客向け出荷の準備をしていた時、倉庫担当者からその報告を受けた。

在庫データ上は、確かに存在する。

しかし、現物がない。

「棚卸差異か」

管理体制が甘い会社であれば、棚卸減耗損として処理されていたかもしれない。

しかし私は、理由の分からない棚卸差異を簡単には認めないようにしていた。

在庫が消えたのなら、必ず何か理由がある。

理由を十分に確認せず償却を認めてしまえば、不正まで一緒に消されてしまう可能性がある。

そのため私は、実地棚卸には必ず深く関与し、棚卸差異についても、自分が納得できるまで原因究明を求めていた。

年度末は本決算も重なり、時間との戦いになる。

それでも、この確認だけは絶対に妥協しなかった。

今回も、その違和感は間違っていなかった。

不足していた製品は、鉄のコイルだった。

まず、加工工程後の保管ロケーションを確認した。

異常は見当たらない。

次に、CCTVを確認した。

映像は、すぐに答えを教えてくれた。

ある契約社員が、製品を持ち出している様子が映っていた。

さらに配送トラックのGPSを確認すると、その配送ルートまで追跡することができた。

犯人の特定は、比較的容易だった。

一人は、倉庫部門の契約社員。

そして、もう一人は、新たに採用した配送ドライバーだった。

このドライバーも契約社員で、二人は結託していた。

しかも、この配送ドライバーは、倉庫部門の契約社員の知人であり、その紹介で入社していた。

この紹介が偶然だったのか。

それとも、最初から計画されていたのか。

そこまでは分からなかった。

しかし、結果として二人が結託し、製品を持ち出していたことは事実だった。

配送ドライバーは、正社員のドライバーが長期欠勤となったため、急遽採用した契約社員だった。

人が足りない。

早く補充しなければ、業務が回らない。

そんな時ほど、採用時の確認は甘くなりやすい。

しかし、人手不足を埋めるための一時的な採用だからこそ、通常以上に採用経緯や人間関係、仕事の役割分担を確認する必要がある。

この事件で、私はそのことを痛感した。

そして、もう一つ。

在庫の数字が合わないのには、必ず理由がある。

「棚卸差異」という言葉で処理してしまえば、その理由は見えなくなる。

数字を合わせることが、棚卸の目的ではない。

なぜ数字が合わないのかを確認することが重要なのである。

だからこそ、経営陣は在庫という「数字」だけを管理していてはいけない。

その数字を作っている「人」と「業務プロセス」まで見なければ、不正を防ぐことはできないのである。

 

■ この事件から学べること

在庫は嘘をつかない。嘘をつくのは人である。だから、管理すべきは在庫だけではない。人と業務プロセスである。

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